千代松大耕・現泉佐野市長ら、大阪府の地方政治家16人が平成22年と23年にかけて、自分が代表をつとめる政党支部に寄付をして、租税特別措置法の定める寄付金控除の申請を行っていたことが、大阪府選挙管理委員会へ、政党支部の代表者である政治家自身から出された「寄付金(税額)控除のための書類」を対象に本紙がかけた情報公開請求で分かった。
(梅本憲史(うめもとのりふみ)・大阪府議会議員(当時)が選管に提出した書類より。寄付したのは平成23年であるが、事務処理の関係から寄付金控除の為の書類の収受は、平成24年となる)
これまで各メディアや現職の政治家が数多く述べてきたとおり、地方議員が代表をつとめる政党支部については、5万円以下の支出であれば支出の明細を記載する必要も領収書も添付する義務もないことから、代表者の地方政治家は税控除だけしてあとは事実上のポケットマネーとして使えてしまう(政治家以外の一般人には出来ない裏技で所得税を減らせる)という問題点がある。
議員の所属政党内訳は、自由民主党13名、民主党1名、共産党1名で、全員合わせて自分の政党支部に寄付したので所得税を控除する申請を行った金額は平成22年の分が4000万3000円、平成23年が2786万7000円で、合計して6787万円である(*なぜかあと1名だけ、大阪府が氏名を明らかにしなかった議員がいたが理由は不明)。
はて、実際に明らかになった例をみると割と出世した政治家が多いのだが、言行不一致のような場合が垣間見られる。
例えば、千代松大耕(ちよまつひろやす)氏は37歳の若さで泉佐野市の市長に当選したが、その時の公約は破綻寸前の財政の立て直しであり、そのために特別職職員の給与を(泉佐野市議会議員としての在職当時)30〜40%削ったことを実績としていたことが時事通信インタビューで強調されている。しかしその割りには、泉佐野市議時代の平成22年と23年につづけて150万円ずつ、自分の自宅に作った自分が代表の自民党支部に寄付をして税控除の申請を行っており、自分の懐は痛めたくないようである。
また木下克重(きのしたかつしげ)池田市議会議員(第71代市議会議長)は「23年ぶりに市税収入が160億円を切るなど財政が厳しい中で、議員報酬のカットや議員定数削減を含めた議会改革に、リーダーシップを発揮したい」と「マチゴト豊中池田ニュース」の取材に答えている。
(自由民主党池田支部へ木下議員自身が寄付をして控除を申請した書類。破綻しそうな財政を改善したいならば自分が税金控除をするのを止めるのが、直接的で確実ではないだろうかう)
なお木下市議は、市議会議員に26歳の時からずっと当選し続けて30年以上議員を続けるベテランなので、よほど大阪府池田市では人望があるのだろう。ちなみにこの自民党支部の場所も木下議員の自宅である。
(大阪府選挙管理委員会のHPより。)
また平成22年に1000万円を自分へ寄付していた西田勇氏(故人)も守口市長だったひとである。
ただ、天網恢々疎にして漏らさずの言葉通り、中内清孝氏は2014年に地元の社会福祉法人に寄付をしたことで公職選挙法違反を問われて大阪府警から書類送検された旨が産経新聞で報道されている(いったいどうして発覚したのかは謎だが、もしも大阪府選管に税控除を申請したのが契機てばれたのならば、相当な寄付好き、あるいは自己破壊的なまでの税金嫌いである。)。
(中内氏の税控除申請の書類。自宅に自民党支部を作っていたことが分かる。)
また新田孝(にったたかし)大阪市議会議員は自分が代表をつとめるNPO法人の会計報告にミスがあったということを大阪市から2014年に指摘されて、訂正報告をした旨がやはり産経新聞に報道されていた。さらに2015年6月30日付けの産経新聞報道でも、政務活動費を長男の会社に564万円、全額支出していることが産経にとりあげられている(産経新聞は、特に関西方面において情報公開関係のスクープ報道をこれまで実はかなり出している)。
なお他の政治家で言うと2年分あわせて、自民は西村昭三(にしむらしょうぞう)堺市議会議員が700万で目立つほか、潔癖症が売りの日本共産党で、中村玲子(中村れいこ)高槻市議会議員が588万7000円、寄付金控除の申請をしているのが異彩を放つ。
(なかむられいこ議員のHPより。野党議員の割りには清濁併せのむ性格で、生活相談をじぶんにもしたのだろうか。あと日本共産党に対しては、中央部がトップダウンで意思決定をする「民主集中制」が民主主義的でないと批判されることが結構あるが、わりに個人個人の意思を大事にする組織かもしれない。また彼女は共産党籍ながら実は小さい政府主義者で、政府の歳入を減らすことにより、自ら率先して財政規模縮小を実践しているのかもしれない。)
さらに民主党の大前英世(おおまえひでよ)府議が在職中に119万円とやはり野党だが大胆に寄付をしているほか、自民の吉田利幸(よしだとしたか)府議が2年合わせて154万円を控除する手続。同じく実践しているのは、池嶋一夫(いけしまかずお)守口市議会議員、高野伸生(こうののぶお)大阪市議会議員、加藤均(かとうひとし)堺市議会議員、大阪府議会議員を経て現在は寝屋川市長である北川法夫(きたがわのりお)氏などである。
(北川のりお氏のHPより。父親は環境庁長官を務めた北川石松氏であり、文字通りクリーンな出自をお持ちである)
そして、現在大阪市議会議員の舟戸良裕(ふなとよしひろ)元市議会議長と、酒井豊(さかいゆたか)大阪府議会議員(平成27年春で引退)がやはり平成22年に120万円と50万円ずつの税控除の申請をしている。
実はこれまでも、政治家が租税特別措置法を利用した特権的な節税をしているパターンは政治資金収支報告書から調査できたものの限界があった。だがそのハードルのいくつかが情報公開制度との合わせ技で解決可能となった。
第一に議員が自身の政党支部に寄付をしたかどうかは政治資金収支報告書からは分かるが、それだけでは税金控除の申請をした証明までは出来ない(本人がノーコメントを貫けばそれ以上追求できない)という点でも壁があった。実際、冒頭の2つめにあげた寄付金控除のための書類を出した梅本議員は、毎日新聞2013年4月11日報道で迂回寄付疑惑を言われていたが「税の還付額は答えられない」としており、毎日の記事も「所得税の還付を受けていたとみられる」という書きぶりにとどまっていたが、実際は平成22年に1000万円分、平成23年に1400万円分で計2400万円の税控除申請をしていたことが今回は証拠として提出できた(もっとも、最終的に申告の際にこの書類を出して控除を受けたかの立証までは出来ないが、税控除以外の目的で使用することのない書類を作成しているため、税控除を受ける手続を進めていたというまでの証拠にはなる)。
第二に寄付をしたかどうかは政治資金収支報告書をみれば分かるものの、政治資金収支報告書の閲覧で障壁があった。一部はウェブサイトで公表しているケースもあるが(東京都、大阪府、青森県、総務省などがこのパターン)②そもそもウェブサイトですら公表しておらず、現地で政治資金収支報告書を調査しないといけない(多くの県でこのパターンなので東北から関東、北陸、九州まで調査するには選管でいちいち確認する必要がある)ため、コストが生じるという面での問題点である。
三点目に、文書の保管期限に由来する限界もあった。政治資金収支報告書の保存年限は総務省、各自治体でほとんどが3年間だったのでそれ以上は遡っての調査が困難だった(全国紙や共同通信、NHKなどの超大手メディアは全国の自治体から毎年コピーをとって保存しているようだが、海外報道機関や雑誌メディア、地方紙、また新興メディアではその蓄積もない場合が多いとみられる)。
ところが、寄付金控除のための書類(内容については国税庁HP参照)の保管期限については大阪府はじめ、多くの行政機関で5年となっている場合が多く、今までよりも長いタイムスパンで遡った調査が可能になる。加えて、情報公開請求を行えば寄付金控除の申請があった事例を文書で押さえる事が出来るため、政治家に「ノーコメント」という逃げ道を防ぐこともできる。さらに、また情報公開請求の場合はコピー費用と郵送料は納付の必要があるものの、それさえ負担すれば遠隔地であっても調査が可能なため、交通や宿泊に必要な手間とコストに比べれば圧倒的に取材が楽になるというメリットがある。
そして、これまでの取材で明らかになった地方議員や市長、区長らが、自分が代表の政党支部に寄付をして税額控除を可能にするというスキーム例は以下リンクの通りであり、判明しただけで控除の対象額は10億円を超えている。なお、この記事は末尾に会員限定で大阪府から入手した「税金控除のための書類」の原本を掲載していてダウンロード可能にしてある(ので、会員になってくれると嬉しい)。
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まず筆者が大阪府を選んで情報公開請求をかけたのは、自民党の大阪府連と大阪府長の松井一郎氏らが率いる「大阪維新の会」の仲が悪いから、今なら出してくれるのではないかと考えただとかいうことは決してないので誤解の無いように申し上げておきたい。
・平成22年分資料 7ccc74c5cbae82ef41c0a8d5680b2a26.pdf
・平成23年分資料 ca0a1ca9cfd036c6ad568d517e01c399.pdf