平成21年以降、奈良県選出の国会議員及び地方政治家らが、自らの政治団体に寄付をする方法で合計1億1542万5925円を対象に「寄付金控除のための書類」を奈良県選挙管理委員会に提出して税控除のための手続を取っていたことが、奈良県選挙管理委員会への情報公開請求で分かった。租税特別措置法の定めを使えば、政治団体への寄付は所得税と住民税を合わせて最大で3割控除できるため、確定申告の際に利用したとみられる。
このスキームを使った節税額のトップは、前回報道した高市早苗総務大臣(本名・山本早苗氏)の2982万円4225円であるが、民主や公明の所属を含めた他の政治家も積極的に行っていた(ただし奈良県選出政治家の一部に留まり、今回の記事に名前が出てくる人間は、極めて政治家の中でも税金を払うのが嫌いな人種であると評価できよう)。以下、見ていこう。
とりあえず自民だけ先行させるとかわいそうなので、まず代わりに民主党からいくと、元自治官僚で立場上は政治資金規正法を所管する官庁の公務員であった、滝実元法務大臣が、平成21年に850万円、22年に620万円、23年に300万円の計1770万円を、自分が代表の民主党奈良県第2区総支部および民主党奈良県総支部連合会へ寄付して、その分の「寄付金(税額)控除の為の書類」を選管に提出。
また前川清成・参議院議員(弁護士)も民主党奈良県総支部連合会に23年から25年まで毎年120万円を寄付した分、所得税を控除する書類を作成していた。
だがもっとも派手なのは自民党で、田野瀬良太郎元総務会長が奈良県第四選挙区支部に800万円の寄付を2回行ったあと、その支部を息子の田野瀬太道(たのせたいどう)現衆議院議員が継いでからは、太道氏が平成25年に600万円を寄付して、税控除のための手続を行っている(なお、後述の通り政治資金は使途をブラックボックスに出来ることから、田野瀬元代議士から、田野瀬氏へ相続税をかけずに資金を付与するという意味でも税金対策となっていることが注目される。)
(父子に渡って、税額を減らすことにかけるその情熱は、巨人の星の星一徹と星飛雄馬が野球にかける情熱のごとくである。)
どうも法律を知り尽くしている立場の元自治官僚や現総務大臣など、知恵の働く人間が節税に積極的に働きを見せているようである。あと、元財務副大臣が所得税と相続税を大幅に減らせる処理を取っているというのは、政府の行おうとする増税の説得力を大きく下げる。
また衆議院議員で現法務委員会委員長の奥野信亮(おくのしんすけ)代議士は、24年に500万、25年には1550万円を寄付して節税(なお奥野議員は、父が元警察官僚で終戦時に大量の公文書破棄を指揮した奥野誠亮・元法務大臣であるためか、当選4回で委員長ポストに就いていてなかなかの出世コースである)。
さらに元衆議院議員で全参議院議員の中村哲治(なかむらてつじ)氏は「中村てつじ会」への寄付300万円を元に税控除のための書類を奈良県選管へ提出。
地方議員では、奈良県議会議員の岡史郎(おかしろう)氏が公明党奈良県本部に337万円超を6回に分けて寄付(なぜか毎回、56万円台の寄付をしているが節税しながらゴロあわせでもしているのだろうか)。念のためいうと、寄付自体は党員や議員のノルマかもしれないが、税控除をしていたのは奈良の公明党で彼だけである。
また現在民主党所属で元奈良県議会議員の田尻匠氏は自身が代表の「奈良県民社協会」へ308万円を寄付して控除できる措置。この際には、旧民社党の田中慶秋元衆議院議員(法務大臣を経験)が、団体の主たる構成員という扱い方をして、租税特別措置法の要件を形式的には満たしていた。
(ただし、田中慶秋元議員は福島県出身で、また選挙区もずっと神奈川であったことから奈良との縁がよく分からず、筆者にはむりやり名前を引っ張ってきたようにも見える)
ほかだと、秋本登志嗣(あきもととしつぐ)奈良県議は自由民主党五條市支部へ131万円を寄付しており、またみんなの党生駒市議会第一支部宛に山田耕三・生駒市議会議員(「みんな」解党後は維新の党へ参加)が50万円を寄付していた。
従来の記事と繰り返しになるが、問題の所在についてのべると一切の政治団体についていわゆる「事務所費」については、額が一定未満であれば明細が不要で、さらに「人件費」であれば総額の記載で現行法上足りて領収書の添付も不要なことから(現行法については総務省HPを参照)代表者自身がける寄付をして所得税などを控除するのは好ましくない。
(総務省による、分かりにくい政治資金規正法の分かり易い解説。いちばんシンプルにブラックボックスの支出をして代表者が自分のポケットマネーにしたいならば、「人件費」と書けば、それ以上の追求は受けないということである。)
以上は政治団体の代表者でなくては出来ない節税方法であって、もともとの給与自体を税金を原資に受け取っている人間らが、さらに自分らの納める税金は少なくするというのはフェアではない。従って、これらのスキームを利用可能な議員の実質的な可処分所得は、額面ベースより多くなる。
(公明党、岡県議のゴロ合わせをしたような節税のための書類)
なお、これまでの記事では「政党支部」に対する寄付のみを問題としてきたが、今回開示された「奈良県民社協会」の田尻匠氏(地元紙の「奈良新聞記事」に宅建業法違反と所得税法違反の疑いで出るなど、スキャンダルの多い方だったようである。)に関する資料で分かったとおり、租税特別措置法41条の18が公職選挙法にぶん投げている非常に細かい規定により、①「その団体の主催者又は主要な構成員が国会議員」であるか②国会議員選挙又は市町村長・都道府県知事選挙の候補者を推薦したり支持する目的の団体のばあいであっても代表者自身の寄付による節税スキームは利用可能である。
「政治活動のために使っているかもしれないからいいではないか」という見解もあるかもしれないが①上述の通り、寄付した資金の使い道は代表者がブラックボックスに出来るので、完璧な性善説に立たない限りやはり使途の問題は残る。そして、大阪の後掲記事リンク例でも、今回の例でも寄付節税スキームに手を染めた議員は税法違反が報道されているので、この前提に立つのは現実的ではない。また、そもそもだが実は選挙カーやビラその他の政治活動に使う物品は政治団体に付けずに議員が個人で払ってもいいわけでありそれをわざわざ政治団体に寄付したあとで、代表者が支出をするというのはやはり税金をなるべく安くしたいからではないかという疑惑が出る。
関連記事リンク 高市早苗総務大臣、自らが代表の自民党支部に寄付をして2982万円ぶんを税控除の処理→その政治資金から、1度に136万デパートで買い物などに支出。情報公開請求と政治資金収支報告書で判明。
関連記事リンク 高市早苗総務大臣、自分の自民党支部に寄付をして税を控除した後で、個人の「市民税・県民税」を政治資金から支払 横領・背任・所得税法違反・地方税法違反の疑い
関連記事リンク 自民の地方政治家、都内だけで10億1492万円を自分の政治団体へ寄付で税金控除措置 23区と市部の合計で判明
関連記事リンク 古屋圭司元国家公安委員長ら、岐阜県選出議員18名、自分が代表の政党支部に計3063万円を寄付で税控除の手続 情報公開請求で判明
関連記事リンク 千代松大耕・現泉佐野市長ら、大阪の自民、民主、共産所属の政治家16名が自分の政治団体に寄付 6787万円分の税金控除を選管へ申請 情報公開請求で判明
【江藤貴紀】