各国の要人および大企業がパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」を利用してペーパーカンパニーを設立していた疑惑にまつわり、日経新聞も「NIKKEI,S.A」(直訳すると「日経株式会社」)を作っていたのではないかという本紙からの質問に対して、昨日、日経新聞から回答が得られた。
この質問は4月14日付けで、4月15日までに回答をお願いしていたもの。内容は以下の通り3点である。
「英紙タイムズが作成した、パナマ文書掲載企業データベースの中に NIKKEI, S.A. というパナマ法人があったのですが、それに関して3点質問です。1. このNIKKEI, S.A.の存在について、御社はご存じでしょうか。2. このNIKKEI, S.A.と、御社または子会社との間に取引関係はありますでしょうか。3. このNIKKEI, S.A.と、御社または子会社との間に資本関係はありますでしょうか。」
これに対して、4月22日付けで日経新聞から得られた回答は「NIKKEI、S.A.と日本経済新聞社は関係ありません.」というものである(文末が「。」ではなく「.」なのは、回答の原文ママ。とても手抜き感満載の返答である)。
だがこれでは、質問に対する応答として成立していない。すなわち1の「NIKKEI, S.A.の存在について、御社はご存じでしょうか。」について「関係ありません」は、日本語としてかみ合っていない。また、2と3では「御社または子会社」との関係を聞いているにも関わらず、「日本経済新聞社は関係ありません」だと、子会社との関係について明言を避けているからである。
なおこれに先立ち、同趣旨の質問を本紙がかけていたNHKは、いったん質問を黙殺した後に、この疑惑がネットで持ち上がった4月20日に、NHKウェブサイトおよびクローズアップ現代ツイッターアカウント、そしてニュース番組内のテロップで「お問い合わせの「NHK GLOBAL INC.」はNHKとは関係ありません。」として、NHK名称のパナマ法人と関係ないという声明を出している。*
これに鑑みると、その2日後に出された日本経済新聞社からの回答はNHK方式の「質問とズレた回答」を踏襲したようにも見える。
そしておそらく、今後しばらくタックスヘイブン利用疑惑を受けた日本企業においては「本社とパナマ法人は無関係です」という、質問とズレた回答がテンプレートとして出され続けると思われる。
厳しい言い方をすれば、日経新聞の対応はNHKを「手本」として自社の「表現の自由」をフルに活用して、(今後に日系大企業が踏襲する見本のような)見解を発表している。公共放送および、発行部数第一の経済紙が、プロパガンダ機関に近いお手本のような役割りを果たしているようにも思われる。
*筆者の理解では、ニュース番組内のテロップというのは北朝鮮の核実験や、国内の大規模自然災害といった非常時に出すものであるが、何かしらNHKにとって緊急の事態が生じたのだろうか。
【追記】実のところ、日本国で商標登録した商標は条約に基づきパナマ国においても通用力を有する(ジェトロHP参照)
特許庁HPを検索してみたところ、日経新聞社は「日経」の商標を登録している。そして仮に日経新聞社がNIKKEI,S.Aへ類似商標についての使用差し止めその他の法的手段を執らなかった場合、パナマ文書で問題になっている類似名称の法人が御社と関係があるとみられ、企業信用が著しく低下する恐れがある。*
その場合、会社法423条に基づき、日経新聞社の役員等は会社に対して、損害賠償責任を負う余地がある。
*仮に、日本国内裁判所において出訴した場合の解決の実効性についてはこの的場朝子氏の論文が参考になる。またもし、執行段階でハードルがある場合でも、本件のような場合は「出訴すること」自体が会社の信頼を守る上で重要であり、出訴しない場合には役員個人が任務懈怠責任を負う余地が十分にある。
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【江藤貴紀】