ニュース配信サービスの「グノシー」が、記事の見出しを配信する際に、グーグル検索のようなものなので、見出しのみの配信は適法である、として見出しを配信する限りではコンテンツホルダーへ1円も払っていないことが分かった。
ところが、同社は、上場時に「コンテンツホルダーに対して対価を支払う」という有価証券報告書を東証に提出しており、この様な見解の説明は全くされていないことも判明。以下の通り、損害賠償請求等の責任を負うリスクがある。
(グノシーが記事の見出しおよび写真を配信している例。山陰中央新報の担当者は、グノシー自体を知らないということであった。また、東北の大手紙、河北新報社の記事見出しはかなり大量に配信されているが、担当者によると全く契約関係は無いという。注1*)
だが果たして、コンテンツホルダーと契約を結ばずに見出しの配信をする行為に、法的リスクは本当にないのだろうか。この点について、グノシー社へ問い合わせたところ法務部から「①法律上の問題はない。見出しを配信しただけだだったら、グーグル検索のようなもので、コンテンツホルダーにお金を支払う必要はない。契約も結ばずに配信していることがあるが、問題ない。②記事内容の一部を配信したときにだけ、権利者にお金を払っている。そのため有価証券報告書の記載通りのビジネスを行っている」という返答を得た。
ところが、この言い分が非常に危険なのだ。というのは、読売新聞電子版の見出しをメールで無断配信したものに対して読売新聞社が損害賠償請求等を求めた事件について平成17年の10月に出た東京高裁判決が損害賠償請求を認めた判例がある。そして、被告からも原告からも上告はされなかったので最高裁判例はまだ出ていない。そのため、既に確定しており、判例百選に載ったこともあってとても有名な判決である。
従って今までの判例に従えば、これまで行われたグノシーのニュース配信サービスのうち「コンテンツホルダーへ対価を支払わないで見出しを配信していた部分」について、グノシー社は損害賠償請求を負ってしまう。
更にいうと、グノシーのニュース配信サービスはこのままのやり方で続けると、毎日、損害賠償請求額が増えてしまう。つまり毎日赤字を垂れ流している状態だ。
また、東証への有価証券報告書でコンテンツホルダーへ対価を支払うと説明しているが、虚偽記載になって上場廃止基準にあたる可能性があるのだ。設立から3年足らず、「いけいけどんどん」で一気に上場を果たした同社の株式リスク(現在1387円)など、詳しく見ていこう。
上記の図は東証への上場に平成27年3月24日付けで、グノシーが東証へ出した新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)である。この右上を見て分かるとおり、グノシーのニュース配信サービスは、コンテンツ保有者に支払をして行うとある。
ところが、グノシーに対して全ての配信ニュースについて対価を支払っているのかと質問したところ、下記の回答が得られた。
*注1この部分について、当初の画像の権利関係が不明確だったので、明確に契約関係が存在しない河北新報社と山陰中央新報社のものに、8月28日13時30分に差し替えてある。
続報記事リンク グノシー 英ニュース社の写真をまとめブログから大量配信 刑事罰と海外訴訟の可能性
以下、全文を引用する。
“On 2015/08/19 19:06, Gunosy法務 wrote:日本外国特派員協会会員・エコーニュース編集長 江藤 貴紀 様
この度はお問い合わせありがとうございます。
お問い合わせの件に関しましてご回答申し上げます。
当社の配信する記事には二種類ございます。一つは、記事配信に関する契約を締結し、記事をキャッシュ(当社側で複製)し、
配信するもの、もう一つは、単にユーザーの求めに応じて、当社側でユーザーに代わって記事を検索し、当該記事のリンクを配信するもの(当該記事はキャッシュ、つまり複製せず、リンクと最低限の情報を表示し、当該記事元にユーザーを送客するもの)の二種類がございます。前者につきましては、当社内で記事を全て複製し配信しておりますので、当該記事を作成しているメディア様と契約をさせていただき、記事の掲載料(利用料)として対価を支払っております。
後者につきましては、当社内で複製は行わず、単にユーザーに記事のリンクを配信していることから、ユーザーは記事元に送客されることになります。これは、検索エンジンにおいて検索結果をユーザーに示しているものと同じであり、
契約の締結も対価の支払も行っておりません(太字部、筆者)。
当社内でも確認いたしましたが、貴社の記事を当社が勝手に複製した事実は確認できませんでしたので、貴社の記事の提供は、貴社の記事へのリンクをユーザーに配信し、貴社のサイトへユーザーを送客する後者に該当する形で行われたものと推測されます。
弊社におきまして、貴社の記事を上述しましたリンクによる提供の対象外とすることも可能です。ご一報いただければ、その手続きをとらせていただきます。
なお、上述いたしました弊社サービスにおけるユーザーの検索により記事を閲覧できる方法につきましては、東京証券取引所にもご確認いただいた上で、上場の承認をいただいており、ご指摘の「上場契約に関する重大な違反を行った場合」には
該当しないことを念のため申し添えいたします。
株式会社Gunosy 法務担当”
以上がグノシー側の言い分である。しかし、上掲リンクの有価証券報告書のどこを見ても、記事見出しの無断配信を行うとは書いていない。すなわち、東証へ出した有価証券報告書に重大な誤りがあるので、東証が上場を認めたからといって、その後にニュース見出しの無断配信サービスが東証の上場基準で許されるというわけではない。
そして、東証の上場廃止などを決定するのは、自主規制法人という東証との別法人だが、ここの上場廃止基準を見てみよう。
このうち、「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」とあるが、グノシー社はサービス開始以来、大量の「見出しのみの配信」を行っている。
「記事の見出しのみ」が配信されている例。)
その他、元記事の権利者との関係で怪しい例では、元記事を掲載した2ch.netをさらに転載した、いわゆるまとめサイトの「保守速報」などが配信されている(ただし、保守速報は記事も掲載しているので、契約を結んでいる可能性がある。山陰中央新報の記事を無断配信して、保守速報と契約しているとしたら、余計に意味が分からない)。
なお、弊社が8月15日付け出だした元々の質問を抜粋すると以下の通りである。
“3 ところで、御社が株式の上場に当たって提出した「新規上場のための有価証券報告書」をみると、ビジネスモデルとしては「コンテンツ・外部プロバイダー」に料金の支払いを見返りとして、記事・情報等の提供がされているとあります。
(参照 http://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000000tg0o-att/04Gunosy-1s.pdf )
4 しかしながら、弊社はそもそも御社とコンテンツの配信契約を結んだことがなく、また1円たりとも御社から頂いておりません。
5 鑑みるに、御社は対価の支払いなくして、他社のコンテンツを無断使用しているビジネスモデルを作っておられます(太字部、記事化に際して追加)。
6 以上を合わせみると、御社は証券取引所の上場廃止基準に鑑みて「上場会社が上場契約に関する重大な違反を行った場合、新規上場申請等に係る宣誓事項について重大な違反を行った場合又は上場契約の当事者でなくなることとなった場合」に当たる蓋然性が高いと思われます。
7 従いましては、下記の期限までにお返事いただけない場合は、自主規制法人に対して上場廃止についての「意見」と、同様の措置を自主規制法人が 取るよう金融庁に行政指導を促す上申書を提出する予定でございます。”
上記の質問は、上場に際して(株式投資家が参考とする)有価証券報告書に虚偽記載をしたのではないかということであって、「記事見出しの無断配信が適法かどうかではない。」
そして、これに続けて、8月21日に以下の質問をグノシーに送ったが、返答はなかった(一部抜粋)。
“下記の判例についてはご存じと承知致します。
見出しの無断配信は不法行為、知財高裁が読売新聞の訴えを一部認める判決
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/10/06/9397.html
http://www.hanketsu.jiii.or.jp/hanketsu/jsp/hatumeisi/news/200601news.html
この判例に従えば、御社による無断の見出し配信も不法行為を構成すると思料します。
この点について(1)御社は、適法とお考えでしょうか(2)これまでにグノシーにより見出しを無断配信された事業者(弊社を含む)から損害賠 償の請求があった場合、支払う用意はありますでしょうか。(3)もし、支払わないでよいとお考えの場合、上記知財高裁判決と、御社の行為がどう違うので適法になるかの理由を添えてお伝え下さい。”
はて、以上に鑑みてグノシーのビジネスモデルは大丈夫だろうか。筆者が見たところこの「記事見出し無断配信」においてグノシーには相当料の損害賠償債務が既に発生しており、同種のサービスを積み重ねるごとに支払債務ばかり増えて赤字が積み重なると思われる。具体的には、7月17日の配信で技術評論社の記事が配信されたが、同社に問い合わせたところ契約は結んでいない等の例があった(グノシー社が配信した記事は膨大であるため、まださらに無断での見出し配信は存在する可能性がある)。
あと実は、前掲の東京高裁判例では「著作権侵害は認めないが、損害賠償請求は認める」とされているものの、今回の場合NHKの報道写真などを無断送信しているので、余計にタチが悪く、著作権侵害まで認められる可能性がある(その場合は、経営陣は刑事罰を負う可能性がある。)。
なお、弊社からの質問の後に、質問内容を知っているグノシー関係者などがグノシー株を売却していた場合、やはり刑事罰付きのインサイダー取引となることを付言しておく。