7月28日に外国特派員協会で開かれた記者会見の現場で、原子力政策に批判的なアイドルグループ『制服向上委員会』が「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」という政治的な歌を演奏したところ、その間だけニコニコ生放送(ニワンゴ社運営)で音声が途切れて、会見場で指摘されるという事態があった。
これは、会見当日に弁護士.comの山下記者の指摘によるもの。(残念ながら山下記者の指摘は弁護士.comの記事には掲載されていない)
(質問する山下記者。やりとりは会見動画の45分58秒からで、ここをクリックしてジャンプできる。)
ーーー弁護士.comニュースの山下と申します。本日の記者会見の様子はインターネット動画サイトのニコニコ生放送でも配信されていますが、先ほどの脱原発の歌のパフォーマンス中にですね、「諸事情により音声を切っています」という表示が流れて、音声が流れていませんでした。その点についてもし理由を事前にご存じでしたら教えていただきたいと思います。政治的な理由なのか、著作権的な理由なのかわかりませんが、事情をご存知でしたら教えていただければと思います。
橋本美香氏 まず知らなかったです。なので理由もわからないんですけれども、もし音声が流れていなかったというのがあったらなんでしょうね。教えて欲しいですけど。としたら、自主規制なのか、それとも他の理由があるのかは教えてほしいと思います。
齋藤乃愛氏私も言っていいですか・・・もし音声が流れていたら、動画を見ていた方にも伝わったかなと思うので、この理由を知りたいですね。
齋藤優里彩氏 日本は何か政治的な発言をすると、批判的な言葉を浴びせられるんです。けれども、視野を広くして、世界に目を向けてみると(政治的な発言は)当たり前なんですよね。でも日本では幼い頃から教育が理解させるというよりは記憶させることで行われています。そして元を変えていかないと日本もなかなか変わらない不満な面と、変わってほしいという面とあります。
橋本美香氏 いまのニコニコさんの理由はちょっとわからないので置いておきます。でも3.11の後、原発事故について日本のマスコミの報道というのは規制がかかっていて、真実を隠しているような感じを受けてきたんです。逆に日本の現状も海外のメディアの方がきちんと取り扱っていることも、ネットを通じて私たちは知っていくわけです。
そういった日本のマスコミの姿勢とか、政治にかかわっている方々の真実を隠してしまう姿勢とを、もっと国民にきちんと包み見せてほしいと思っています。ちょっとニコニコさんのほうで、音声がかからなかったということについて語らせていただきます。
以上のように、予想外の荒れ方をした会見だったが、この件について事後に確認したところ、まず制服向上委員会の事務所であるアイドルジャパンレコード株式会社は「音楽を流したいという件は、事務所としては事前に許諾しました」ということで音声が消えたとしたら原因は分からないという。
また外国特派員協会の記者会見担当部門にも合わせて確認したが「外国特派員協会としては理由が分からないので、ドワンゴ社(注*)へ問い合わせてほしい」ということであった。
そして、7月28日の夕方以降、ニコニコ動画を運営するニワンゴ社へ会見中から再三、原因が事故なのかどうか等を問い合わせたが7月30日の午後5時30分時点で回答は得られていない。
なおはハフィントンポストの記者へは、著作権上の問題があるかもしれないと思ったと回答したとあるが、弊社の質問に対してはなぜか回答がない(何か今まで失礼なことでもしたのだろうか)。
ところで、日本では、憲法21条の禁止する「検閲」について最高裁判所の判例で非常に狭い解釈が取られていて「公権力が主体」でなければ、これに当たらないとされる。しかしながら事実上、多くの情報メディアは民間ベースで運営されており、それらが勝手に(あるいは政府の意思を忖度して)表現規制を行えば検閲と同様の効果が生じてしまう。
なおニコニコ動画を運営するニワンゴ社の母体であるドワンゴ社へは、麻生副総理の甥である麻生巌氏が取締役に就任していて自民党との関係がファクタから指摘されたあと、それがHPから消されていた。しかし登記簿によると依然として麻生巌氏が取締役になっているということが昨年発覚している。
ところでそもそも論であるが、ニコニコ動画はYouTubeに流れる動画を持ってきてコメントを付けるという、パイレーツサイトとして誕生した(よほど政治力がないと、刑事事件などのリスクがあるため出来ない力業である)上に、ドワンゴ社においては未来検索ブラジルとの2ちゃんねる「まとめサイト」斡旋契約をウェブサイトで堂々と仲介している。
そしてこの2ちゃんねるまとめサイトについては、2014年2月以降に2ch.netを実行支配する管理人のジム・ワトキンス氏が再三にわたって著作権法違反であるとして、不快感を表明しているところである(ただし、同氏とニワンゴ社取締役の西村博之氏の間では著作権の所在について争いがある)。従って、権利関係が未だにグレーな、2ちゃんねるのまとめサイトビジネスをウェブサイトで堂々と斡旋するような会社であるドワンゴ子会社の、ニコニコ動画が著作権を理由に歌を流さなかったという説明はとても説得力がないものに思える。
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*正しくは、ドワンゴ社ではなく子会社のニワンゴ社がニコニコ生放送の運営会社であるが、このグループは2ちゃんねる同様、運営形態がとてもわかりにくいので外国特派員協会も混乱しているようである。
【江藤貴紀】