2013年に、タックスヘイブン利用企業にかんする法律事務所の内部リーク情報を元に米国のジャーナリスト団体ICIJが公表していたデータの中に、2社の「原子力」に関係する名称の企業が存在していることが分かった。
今年の4月に同じくリークによってパナマを租税回避地として利用している企業群の存在などが明らかになった「パナマ・ペーパーズ」によれば北朝鮮やシリアが制裁を回避するために、タックスヘイブンを利用しているとされる。より具体的には、イギリスの金融事業者がナイジェリアへ設立した企業により北朝鮮が兵器の売却ビジネスを実施して、間接的に核開発が促進された旨が英ガーディアン紙で報道されている(この北朝鮮企業は2006年にイギリスバージン諸島に法人を設立したが、この業務を引き受けた法律事務所・モサックフォンセカは2010年に英国の金融調査当局から知らされて、ようやく顧客が北朝鮮の企業であることに気づいたという。)。
すなわち、これは北朝鮮などにおいて、経済制裁の眼をかいくぐって核物質を購入する余地があるということを意味しており、原子力関係企業がタックスヘイブンに法人を持っていると言うことは、単なる脱税やマネーロンダリングといった経済問題に留まらない深刻な問題はらむ。
1つはASIAN NUCLEAR INTERNATIONAL TRADING LIMITED(アジア国際原子力貿易社)という名称の企業で中国系と見られる役員名が散見される。
貿易企業向けサイトの52wmb.comにある登録情報によればパキスタン企業へ輸出しているとされる。
(ここで出てくるパキスタン企業の「The Saddians」はアクセサリー及びツール、を取り扱っていると登録されているが、原子力関連の中国企業からいったいどんなアクセサリーやツールを購入したのかは不明である。なお、パキスタン国は、世界的な核拡散ネットワークの中心人物として取り上げられたアブドゥル・カディール・カーン氏が技術者として努め、1998年の核実験において北朝鮮の代理核実験を行った可能性が指摘されている。)
もう一つは「Supra-Atomic Co., LTD」(スプラ原子力社)である。この企業自体の所在などは明らかでないが、株主企業としては「Eurolite Co., Ltd.」という香港法人が登録されている。
ところで、この「ユーロライト社」は香港、ワンチャイロードのビルで一室に入居しているがこの住所「Sealight Incorporations Limited Room 1201, Connaught Commercial Building 185 Wanchai Road Wanchai, Hong Kong」でオフショアリークスのデータベースを調べると異常に大量の法人が見つかる。そのため、親会社の素性も結局は確認できない状態にある。
目下のところ、日本国内ではメディアが余り仕事をせず、タックスヘイブンの問題を海外の経済事案として取り上げる傾向が強い。だが、実のところタックスヘイブンはブラックボックス化した国際取引窓口として、東アジアを含む安全保障上の問題としての側面を持つことが、改めて文書を精査するとわかる。