Menu
2015年5月以前の記事はこちら
2015年4月以前の記事はこちら

「中学受験の頑張りすぎで身長が低くなる」説は本当か? 高偏差値校「都立小石川」のサンプル1700超の分析

2017年1月19日15時34分
カテゴリ:学術

「中学受験の頑張りすぎで身長が低くなる」説は本当か? 高偏差値校「都立小石川」のサンプル1700超の分析

中学受験生、特に学力の高い生徒は、身長が低いのではないかーーそして、その一因に運動不足や睡眠不足などがあるのではないかーーこのような印象をお持ちの方は、首都圏の保護者や教育関係者で少なくないのではないだろうか。


例えば、フォーマルに署名された記事では、オバタカズユキ氏が2016年1月30日付の記事で「中学受験の難易度と生徒の身長にまつわる俗説について」と題して論じており、概ね「受験学力と身長との反比例な相関関係」があるのではないかと述べておられる。


筆者も実はこれと同様の印象を持っており、入試の難易度も進学実績も高いスコアを出している都立小石川中等教育学校(いわゆる、都立中高一貫校。定員は160名で中学募集のみ)の身体測定結果へ情報公開請求をかけて調査を試みた。ところが結果は予想を裏切るもので、入学者の平均身長は、ほぼ東京都全体の中学1年生平均と変わらない値にあり、その傾向がほぼ10年にわたって続いていた。





(東京都教育委員会が開示した、小石川中等教育学校の平均身長と体重の推移。元は高等学校であり、1期生とあるのは2006年に中学受験での選考を始めた年の生徒らを指す。また4、5、6年生はそれぞれ高校の1、2、3年生に相当。)



東京都HP掲載の、平成27年度・年齢別の身長、体重、座高の平均及び標準偏差より。この学年は、年次でいうと小石川の第10期である。)


ただし、今回の調査で中学受験生(と受験経験者)一般の体格に関して結論付けるのは差し控えたい。というのは小石川など、都立の中高一貫校は「適性検査」という形式で合格者を決めており、この適性検査は①私立や国立の中学に比べて、暗記量が成績に直結せず②一定の算数力や類題の演習はおそらく得点に結びつくものの③文章の要約能力や、資料を読んでの推論能力、文章作成能力を問う内容なのでいわゆる「ガリ勉」がおそらくあまり有効ではない種類の入試だからである(つまり、睡眠時間を削って勉強するなどしても、合格に結びつきにくいと考えられる)。


また、調査書についても一定の配点があることから体格や運動能力で劣る生徒は、入試において不利となっている可能性もある。というのは小石川の入試枠(特別枠と一般枠)における配点を見ると、いずれも調査書の配点があり、少なくとも配点のうち25パーセントは調査書に当てられているからだ。



(都立小石川・平成29年度募集要項より)


なお、①筆者は現在、中学受験の生徒へ受験指導する立場であること、②また、今回の小石川中等教育学校のデータは予想外であったこと③実感としてはどうしても中学受験をしている生徒の発育がよくないと感じていること、④大手塾の上位クラスにいる生徒に、睡眠時間を削って学習に当てている例がかなり見られるという点も同様に感じていることを申し添える。


また、オバタ氏や筆者の印象とは別の観点だが①早生まれ、遅生まれが入試の結果と体格の双方に影響している可能性、②中学受験をする余裕のある家庭は子供の栄養状態も良好で、体格でハンディを負いにくい可能性③上述の通り、調査書の配点が大きいため純粋なペーパーテスト勝負よりは体育その他の調査書も加味した点数で合否を決される方が有利と受験生が考えて受験校を選択している可能性など、複雑な因子が作用する。なので中学受験の学習と体格の関係について、何らかの結論を導き出すのには未だ持って、慎重でなければならないと考えている。


今後の調査としては、より「詰め込み型」の入試を課すタイプの国立大学法人が運営する難関の国立大付属中学へ、独立行政法人等情報公開法を用いて、同様に身長と体重の平均を取ることが考えられる(ただこの場合でも、調査書の配点でバイアスがかかる可能性は残る*仮に、このタイプの中学でも生徒の発育に影響が見られない場合は、中学受験偏差値が高いと体格が小さいという仮説を捨てるか、あるいは体格が小さくなるほどにまで身を削ってまで受験勉強をする群の生徒は、中学受験で成功しにくい、という仮説を立てるかしなければならないだろう。)


あるいは、情報公開制度での調査は不可能だが、私立の高偏差値中学でなおかつ調査書に配点をおいていないところから在校生の平均身長・体重のデータを入手できればよりバイアスの少ない調査が可能かもしれない。ただしともかく、今回の調査(11期生分なのでサンプル数は1700超である)では、中学受験の成功と体格の間に負の相関関係は見当たらなかった。また強いて言えば高学年になってからの男子体重の伸びが悪い傾向が見られるなどするものの、この点に関しては運動系の部活よりも他の活動に時間を割いている結果である可能性があるため、他の進学校(例えば、高校入試から募集が始まる、都立の日比谷高校など)と比較しなければフェアな調査とならないことを添えて、結びとしたい


1月22日追記:現在、いくつかの都立高校に情報公開請求をかけて、入試難易度と生徒の平均身長について追加調査を行なっている。なお英語圏では、同趣旨の研究が盛んに行われているようである。


【江藤貴紀】


 

人気記事ランキング
 

ページトップへ戻る