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村山富市元総理、外国特派員協会で会見「村山談話は、アジアで孤立しないために政府として出したものだ」

2015年7月29日17時00分
カテゴリ:国内

村山富市元総理、外国特派員協会で会見「村山談話は、アジアで孤立しないために政府として出したものだ」



8月に戦後70年の『安倍談話』が出ると見られるのを前にして、村山富市・元内閣総理大臣(91才)が、日本外国特派員協会で2015年7月29日の午後から会見を行った。歴史認識と安全保障、その双方で安倍総理とネガポジのようにコントラストを示す村山会見の全文と、質疑の内容をお伝えする。



(村山元総理。大正13年3月3日生まれなので、安倍総理の父、安倍晋太郎氏(大正13年4月29日生まれ)より年上である)


村山富市・元首相:ご紹介、ありがとうございます、村山富市と申します。わたしはあの、外国というのは英語がもとより全然ダメですから、何の話をしていいのかも、何の話をしているのかも、サッパリ僕には分からないわけです。ですから今日はこの場に来て、率直に話をして皆さんのご質問にお答えできる事はお答えするということにしたいと思います。


私が20年前に総理をやっているときに村山談話を出しました。今、戦後70年になって安倍さんが安倍談話を改めて出したいとなっています。ですから、村山談話と安倍談話とがどう違うのかということで世界的な注目を集めているのだと思います。

村山談話が出たときというのは、ちょうど戦後50年の節目です。内政問題や外交問題など、日本はアジアの一員でアジアのコミュニティーの一員だからアジアでより信頼される必要がありました。


そして第二次大戦について悪かったことは悪かったとお詫びする、そうして皆さんの理解を頂くということにならなければ日本はアジアで孤立する国になるのではないか。そういういうことでの締めくくりをするために、談話をすることにしたわけです。


村山談話は総理個人の歴史観が基調になるのは当然でした。しかし村山総理個人の談話ではなくて、閣議で決めて政府として出したわけです。


でも自民党があれだけ多数を持っていて、自民党自体はその村山談話には非常に反対という意見が強かった。政府もその自民党に影響されて村山談話というものは余り宣伝もしていないんです。だから、国民の皆さんも村山談話が何かというのを知らないのですよ。私も忘れていました(笑)。


日本国内はそういう状況でしたが、それは韓国中国をはじめとして,アメリカやヨーロッパの国からは評価されてきました。例えば当時のドイツのブラント首相はポーランドでひざまずいて反省の念を示した、それに匹敵するのが村山談話だということで非常に評価されたのです。


そういう風に諸外国では大変に評価されているのだけれど、日本国内では大変に逆です。どこの国でもやっていたことを日本がしただけでないか、ヨーロッパの国もアジアを植民地化した、日本はヨーロッパからアジアの国を守るために(近代の対外政策を)やったのだ、といって当時の国民から批判されるようなこともありました。


国内では余り評価されていないけれど、外国との関係では評価されているので、私の後を引き継いだ後継内閣は全て自民党から民主党から、村山談話を継承するということをしていたわけです。


ですから、そういう責任問題、戦争責任の責任問題は一応解消されたことになっているわけです。でも村山談話は国内では知られもしないということになっています。


この話がいま(日本で)出ているのはどういうことか、申し上げます。安倍さんは第一次内閣の時は継承すると言っていたんです。でも、第二次安倍内閣になって態度が変わった。


日本語の侵略には、国際的に認められた定義がないと安倍さんは言い出したのです。それで、いま問題になっているわけです。そんなことをいうのはなぜかと人はいうけど、彼は違う考えを持っているようです。


安倍さんのことによって村山談話が注目を浴びてきました。学生からも質問が飛んでくるようになりました。歴史を知って学習するためにはね、安倍さんは反面教師としていいことをしてくれているなと私は思うんです。


そうした安倍さんの発言と関連して、いま国会で安全保障関連準備法案が議論されています。しかし初めてのことですが、圧倒的多数の憲法学者が、この法案は憲法違反だといっている。どこが憲法に反するかというと、どの国も個別的自衛権と集団的自衛権がある。そして日本には個別的自衛権ならあるけれど、集団的自衛権はないといっているんです。


なので、朝鮮戦争や湾岸戦争など多くの戦争があったけれど、日本は後方支援に留まっていたわけです。それを安倍さん自身が憲法解釈を変えて、ここまでだったらやっていいんだと言っているわけです。それに対して国民の反対が起きているのです。


だからあの、一部の声としては勝手に内閣総理大臣が内閣の方針として憲法解釈を変えて、出来ないことをしているのが許されない、だからどうしてもやりたいなら憲法を改正すればいいという声があります。


ですが、憲法を改正するのは大変なのです。衆議院と参議院で3分の2をとらないと(憲法改正の)発議が出来ません。それと国民の過半数の賛成を得て、憲法改正は成立します。でも衆参で3分の2はとれない、だから憲法を解釈で変えているというのが安倍さんのやっていることです。そして、それは許されないという意見が国民の中で起きているわけです。


いまの日本を取り巻く現状を私なりに簡単にご説明します。わたし自身は現状に対して国民の怒りは当然であると、日本はこの70年間戦争をせずに平和のために生きてきました。


仮に、北朝鮮がいわれているように核を持って、中国が勢力を拡大して南沙諸島で問題を起こしていたり、南シナ海でベトナムやフィリピンと不穏な状態になっても、これをエスカレートしていくといけません。


これは外交問題で解決していく。だから平和憲法というのは大事なのです。平和憲法は世界中が認めているわけです。それがあれだけの戦争をやった償いなのだと、端的に私は思います。


最初の方、私が余り喋らないでなるべく質問に答えて欲しいという要望がありましたので、それではご質問に移りたいと思います。


Q インドネシアのリチャード記者:

簡単な質問ですが、2週間ほど前、村山総理も国会の前の反対運動に賛成されましたね。どうして村山さんが元々総理大臣、ナンバーワンだった人が道にでて(デモをするのに)参加する必要があるんでしょうか?その答えをお願いします。


A これに全然、抵抗がなかったら国会でスムーズに進んでいき、憲法の改正に行きます。何かあったら自衛隊が海外に行って戦争になるが、それはいけないという気持ちで立ち上がったわけです。強行採決などしないようにね。


日本では長いものに巻かれろ、そういうのがあるので国民の声が政治に反映されないんです。何回選挙をやっても自民党が政権を握っている。こういう中で初めて、国民が立ち上がって自主的に運動しているわけです。


ですから国会の中だけでなくて国民で動かないといけないと若い人が思っている、だからこれを持って災い転じて福となすために、非常にいい機会だと思っています。あと何年、私が生きるか知りませんが国民の声を政治の中で語る必要があると考えて、デモへの参加をしているわけです。


Q オーストリアの新聞社のものですが、私の出身地はドイツ出身なので村山談話は、尊敬しています。でもいまは1995年とは違います。日中関係はより良好だったし、あと中国はそれほどアグレッシブではなかったのではないでしょうか。


しかしいまの状況ではちょっと同じ談話を出すのは難しいのではないでしょうか。ご意見をお願いします。


A 私が94年に総理になったとき、ASEANや中国、韓国を訪問しました。そして韓国は36年間の植民地支配があったために日本への不信感がある。そして中国に関しては天安門事件があった直後。なので民主化運動の天安門事件を実力者の鄧小平が潰したわけです。そして江沢民さんが国家主席になったけれど、彼と会ったときに痛烈な歴史に関する質問があったんです。


そしてASEANの国は日本のおかげで経済発展が出来たというのを感謝してくれていた。しかし過去の植民地支配への怒りと不満というのはやはりあります。経済大国になった国は軍事大国になるのではないかという懸念を腹の中では持っていますよ。


なので歴史問題への解答をしっかりと示す必要がある。そう思って、アジアの国々の信頼回復をやってきたわけです。


95年当時と今日で日本を取り巻く客観的な情勢が変わっているということはよく言われる。確かに変わったといえば中国が物質的に偉大な国になったというのが一番大きいですね。


アジアの国の中で一番変わらないのは朝鮮半島ですね。38度線で区切られていて、休戦状態ではあるけれど終戦ではなくて、北朝鮮は核を持って脅威になっています。ASEANの国は豊かになっていますね。


私は何度か中国を訪問しました。尖閣の問題などもあって、政府の対応でも何でもない民間外交として行ったのです。じつは尖閣はあまり注目を集めていませんでした。でも、それを96年に国連の委員会がレポートを出して海底油田があるとして注目され始めたんです。


ただアメリカ軍が沖縄を占領していて日本にかえしたときに沖縄に含まれていたので実効支配しているわけです。ですから、領土問題についてはお互いに自分の領土だと日本と中国は言っているけれど、話し合って解決するといいと思います。


中国は戦前は多くの国々から侵略をされてきましたが、いまや中国は大きな国になって北京は世界の大都市になっています。そして、これは戦争がなかったからこそこうなれたんですと話すんです。それで軍備を持っているのはどういうことですか、といったらいや覇権を持つとか、戦争をしたいとかは思わないと(中国は)いいます。


それは小競り合いはあるかもしれないが、国と国との戦争などということは今後はないと思いますよ。あってはならないですよ。


Q ドイツのマーチンといいます。この件は、最終的に最高裁が決めることになりますでしょうか。そして、仮に合憲と行っても違憲といっても、これは憲法的に危機的な状況になります。どっちにしろ、政治状況がリスキーになると思います。


A 違憲か合憲かは、最高裁はいままでは判断になじまないといって、まともにとりあげてないんです。そして取り上げた裁判は少なくて、砂川事件は例外的にあるけれど、あれは(日米安保)条約に関係してやったからちょっと例が違うんです。


だから最高裁判所が、憲法でハッキリこの問題にいったことはないです。ただ、憲法学者の多くが違憲だといっていますね。また内閣の中には法制局というのがあって国会に提出する法案が合憲かどうかを最初にチェックします。


国会議員が質問すると法制局長官が答弁するんです。その権威のあるポストをやってきたOBの方々が、これは憲法に反すると言っているわけです。


そういうところにこの法案の問題点があります。そして国民の間で憲法違反だという訴訟が起きる可能性はありますが、判決までには時間がかかるのです。なのでこの段階で決着を付ける必要があるのだということで国民の皆さんも立ち上がっているのだと思います。ありがとうございました。


【解題】


以上、今回の村山元総理会見はプレゼンテーション部分では割りとよくまとまっているが、読者の方において、不思議に思われた点があると思われるので筆者なりに解題したい。

まず(1)ドイツ系の記者から、憲法訴訟の質問が出た背景であるが、これはドイツの憲法裁判所は抽象的違憲審査制というのをとっていて、何も事件がなくても法律が憲法違反かどうかを裁判所が判断できる。(割りと憲法の授業の最初に習う話なのでご存じの方も多いかもしれない。)


一方で日本の場合は付随審査制というのをとっているので、法案に関係した何らかの事件など(たとえば砂川事件の場合は、実はデモ隊がアメリカ軍の基地内に侵入したことについての刑事裁判である)がないとそもそも裁判自体が始まらない。したがって司法による解決は実効的に期待しにくいわけである。


あと、もう一つ(2)中国は経済的に豊かになったから今後は戦争は起きないし、また今はもう戦争が起きる時代ではないという村山富市の認識は、ひどくいい加減で歴史の実例にも反している。例えば、昨年にはロシアがウクライナを侵攻したばかりである(ロシアはあれを戦争と認めていないが、普通の感覚ならば戦争以外の何物でもない)。

また経済的に豊かな国なら戦争を起こさないというのも根拠がなく、第二次大戦を起こした時のドイツは、工業生産力を十分に回復していた(だから、あれだけの戦争が出来たのである)。加えて湾岸戦争でクウェートを侵略した当時のイラクは、十分に石油生産で豊かであった。ちょうど村山総理の誤謬は、民主主義国家は戦争を起こしにくいという、民主的平和論によく似ているが、「絶対にない」ということは何事にもあり得ない。


 

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