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ネパール大地震 震源地は仮設住宅が出来るが不満も 都市部では治安回復

2015年7月6日03時51分
カテゴリ:外信

ネパール大地震 震源地は仮設住宅が出来るが不満も 都市部では治安回復



(カトマンズ中心部の被災者むけ一時住宅)


4月25日にネパールの首都、カトマンズの77km北西付近で発生した大地震から2ヶ月が経った。当初はNGOや各国の支援部隊も空港に着陸できないなどの事態が続いていたところ、現在では少なくとも空路は回復している。混み合っている支援部隊の邪魔などになる心配が減少したと判断できたため、現在の状態をネパール入りしてお伝えする。


まず、震源地のゴルカ群では中心部でも多くの建物が被災。瓦解したものもあるが、外観上は無事でも室内に深刻なダメージが見られた。例えばであるが、ホテルについては6件中4件が、外観は無事なものの客室が壊れて営業を休止している。


付近の村ナングラパニ(Nanglapani)では、60以上の世帯が暮らしていたが10世帯の住宅が完全に崩壊。死者は幸いなかったものの一時住宅暮らしを余儀なくされている(国際NGO「オクスファムUK」および現地の被災者によると政府からは1万5000ルピー(日本円で18000円ほど)の現金が各家庭に配布された。これ自体は非常に有効だったものの、住宅の再建をするにはまったく足りないという。



そして、政府は全国の被災者に一律のフォームのトタン作りでアーチ状の「仮設住宅」を配っているが、甚だこれが家をなくした人にもそう出ない人にも評判が悪い(筆者も見て問題だと感じた)。単なるかまぼこの屋根っぽい構造で、雨の時に風が吹き込んできたら防げない構造なのだ。


首都のカトマンズでは、外国人旅行者の多いタメル地区などで崩落した建物が多数みられるがインフラは水道、電気ともに通常通り機能している(注1*)。交通網に関しては一部で道路の陥没が見られるものの首都のカトマンズから東部の都市ドゥリケルや西部の都市ポカラまでの道のりは通常に機能していた。


しかし治安に関しては良好だ。カトマンズでは昼間の一人歩きや、夜間なら多少の外出は可能であり、体感治安としてはインドネシアのバリ島やタイのバンコク、スペインのマドリッドなどと変わらない水準である。(注1*)


ただし、ネパールは非常に起伏の多い山間の国であり、山間部では村が丸ごと一つ崩壊した場合もある。そして、被害状況の確認については道路が寸断されていてヘリコプター以外でのアクセスが困難である。そのため、カドマンズで旅行業を営むA(匿名を条件に語ってくれた)によれば依然として現地の報道でも明らかになっていないという。




(カトマンズからバスで1時間30分ほど、ドゥリケルからパナウティへ向かう途中の丘沿いにある民家)


懸念されるのが雨に伴う土砂崩れだ。ネパールはいまちょうど、雨季に突入しているために地震で崩れた土砂のせいでバランスを失った土地がや、地震で脆弱になった地盤が雨で地滑りを起こす危険性が非常に高いという指摘がある。


遭難した登山者のために、ヘリコプターで救助を行う民間企業に勤めるスラ・パウジャイ氏(37)も同様の懸念を持っている。「少なくとも5000〜6000メートル級の山に関してはあと5,6年は何が起きるか分からない状況。その間の登山リスクは未知数だ」とスラは言う。


ただし幸福な事情もある。上述の通り山間部への輸送問題は残るが、ネパールは元々が人口の65.8%が農業に従事しており、農業がGDPの34.8%をしめる農業国(外務省駐ネパール大使館資料参照)。食料に関しては輸出よりも輸入が多い輸入超過国であるが、何とか飢餓の心配がマシになっている可能性がある(ただし報告書によっては、ネパールを深刻な飢餓の心配がある国、とあげるものもあるがインドのニューデリーやインドネシアのジャカルタなどと比べれば、圧倒的に都市での放浪者や乞食は少ない)。



(パナウティ付近の農村部。地震で一部の民家が打撃を受けたが、田植えの作業は例年と変わりなく行われていた。)


しかし外貨獲得の主力である観光業の打撃は大きい。観光客のメッカであるカトマンズのタメル地区(バンコクのカオサンや、バリ島のクタのようなものを思い浮かべてもらえれば良い)では、旅行のキャンセルや延期が相次いで閑古鳥だ。


また国内第二の都市、ポカラも例年なら隣国の中国から大量の旅行者が来ている時期(多くのホテルや食道が中国から資本を受け入れていて、ホテルでは中国語での案内も多い)だが、地震のせいで今年はほとんど来ていない。


「国内でも海外でもメディアは悪い面ばかり強調する。ちゃんと都市生活は元通りになっているのにそういうことは報道されない。そのせいで経済の回復に遅れが出て悪循環だ。メディアのモラルっていうのは、一体何なんだ?僕はマスコミが信用できない」とAはいう。




(ブルーテントの被災者住宅。)


そして悪いことに、ネパールは世界最貧国の一つだ。発展途上国の中でも後発開発途上国の一つであり、1人あたりの所得水準、人口などの指標で言えば北朝鮮と同等の水準である。だいたい、首都のカトマンズですら舗装されている道路が少なくて、大使館などのある通りとごく一部の幹線道路がコンクリートになっているが、市内の中心でも未舗装のエリアが多い。



(ゴルカの農村、サングレパにでの食事風景。ただし、被災後の様子である点で普段よりも悲惨そうに見えて、あと一方で出ている食事自体はダルバートというメインコースの料理である。筆者をもてなしてくれたので、このような構図になった可能性がある)

この貧困のため、ネパールからは、年間7000人単位の少女が売春業のためインドなどに売却されているとされる(日本の人口1億3000万人で換算すると、毎年3万人ほどの女子児童が国外に売り払われている、というのに相当)。


地震によって、人身売買が加速したという報道については、サンジブ氏も「事実だろう」と否定しなかった。


なお日本にも滞在するネパール人の数が増えていて、統計では42346人のネパール人が在留しているとされる。もっとも統計自体が不法移民などを完全に反映できているのかどうかという問題点があるが、幸いなことに目立つのはインド料理店(ネパール人が経営したり調理していて、インド料理店を名乗っている場合が多い)などである。ただこの場合も政治的混乱の他に貧困が大きい要員になっていると思われる。


だがともかく、都市部で治安と食糧供給その他が十分な水準に保たれているというのは朗報で、旅行(ひょっとするとNGOなどに中抜きされるおそれのある募金と違って、確実に現地にお金を落とすことが出来る)する上では、エリアさえ選べば安全な状態に戻りつつある。


ただし、都市間の移動でバスを使うと、山間の道を通過しないといけないので地滑りや道路の崩落のおそれがまだある。従って、雨季の間はネパール国内の移動も飛行機のほうが安全である。


(注1*)もっとも、この普段の水準にやや問題がある。というのは地震前から、停電が毎日おきるのが当然(現地の複数の人の話)で、電力不足が原因の計画停電の場合もある。ただし途上国において、これはそれほど変わったことではない。


*なお、ネパールへの渡航情報についてはこのリンク先にある外務省のHPで知ることが出来るが、残念なことに2015年7月5日現在で、最終アップデートが2014年11月のため、地震後の状況把握には役立たない。

(ちなみに、外務省の渡航情報はかなり慎重過ぎてかえって参考になりにくい問題点はある。途上国で「十分注意してください」となっているエリアはおおむね旅行を普通にできることが多い。例えば、インドネシアのバリ島やタイのバンコクといったところもこの「十分注意してください」のランクである)


【初出7月6日・7月15日にゴルカ付近の状況を付記】


 

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